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平和の火♪♪

今日は、父の話です。
父は平和をこよなく愛しています。
そんな父が夏になるとライフワークとして毎年毎年こなしていたのが、
『原爆の火』を運ぶことです。
原爆の火ってのは、広島に原爆が落ちたとき、誰かが残り火をカイロに取り、それを未だに50年以上も絶えず燃やし続けてるっていう、ちょっとイナセな品。
父は夏になると『原爆の火』を管理する人たちをあの手この手で口説き落として、その火のおっそわけをいただき、オリンピックの火のようにリレーさせ、平和を熱く訴える。
私はそんな父の背中を見ながら、育ちました。
父が煌々と燃える火を指さし、『あの火は50年以上前の原爆の火なんだよ、父さんが運んだんだ』と教えてくれるたび、子供ながらに、「このオヤジやるなあ。小さな巨人だな。」なんて思ったものでした。
ところが、ある蒸し暑い夏の夜。
父は、必死に自転車を漕いでいた。
右手には原爆の火の入ったランプを持って。
明日は8月6日。
汗だくで自転車を漕いでいました。
そうして路地を曲がると一台の消防車が止まっていました。
父さん、ん・・?と思いました。
いやいやいや、全然やましくない。
やましくない、胸張って言える。
やましくなんかない!
だ・が、
消防車の横を夜、ランプを持って通るって、両方が微妙に気まずいですよね。
変な空気流れちゃいますよね。
その時丁度、消防車サイレン鳴って、びくっー。
ってなったらしいです。
結果、おもいっきり転けました。
消防隊員が心配して駆け寄って来たときには、顔面蒼白のビックリ顔で大の字にひっくり返りながらも、ランプだけはしっかり掲げちゃって、もう怪しいのなんのって。
しかも転んだ拍子にアルコールなんて全部飛び散っちゃって、微妙に飛び火して、『なんだその火はっ!』って、危うく原爆の火、消火される勢い。
父、『駄目だー!この火は尊い火なんですー!』と言っても怪しさは増すばかり。
そして、父(放火犯疑い)と消防隊員と30分近くに及ぶ討論の末、和解。
その頃一方、原爆の火ですがすっかり元気なさげ。
アルコールもすっかり抜けて、オーラ薄くなっちゃってる。
『あーーーーーーっ!』って、家路に着く頃には、すっかり、鎮火。
父は抜け殻になったランプを抱えながら、リビングで1人途方に暮れた。
翌日、どっかの会館にて、父に手を引かれた私は、例のセリフを耳にすることになる。
『いいか、あの火は50年以上前の原爆の火なんだよ、父さんが運んだんだ』
あれは、我が家のコンロの火でした(笑)。
2020/11/30 20:16
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